レースシーンにおいて、アタック、ヒルクライム、ダウンヒルやスプリント、そして集団での走行など、レース展開に合わせた走りが要求されます。
様々なシチュエーションごとに、ペダリングを切り替えるテクニックや引き出しの多さを総称して「良いペダリング」と定義します。テーマ2の「良いペダリングとは何か」では、シチュエーションに応じたペダリングについてのお話をうかがいました。
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平坦な道でのペダリング
――「良いペダリングとは何か」という、漠然とした、一概に答えることが難しいテーマだと思います。シチュエーション毎に細分化して、お話をうかがっていきたいと思います。まず始めに、平坦な道路を走行している時に意識することは何ですか。
畑中選手
平坦を走ると一言で言っても、集団の中で流して走ることもあれば、集団を引っ張るために出力を上げるとき、独走など色々なシチュエーションがありますよね。
平坦を走るときはペダリングの効率以外に、空気抵抗も大きく関係してきます。窮屈な姿勢、エアロポジションを強いられるシーンも多いです。
レースのときって、ペダリングの効率を追求することが最善とは言えません。乗車姿勢を窮屈にして出力が少し落ちたとしても、エアロポジションを取った方が、結果的にタイムが良くなることもあります。自身が発揮する出力と、空気抵抗のバランスを意識しています。
運動強度やシチュエーションに応じて、ペダリングとライドポジションを変えています。あと、走行中のフォームがずっと一緒だと、疲労が局所的に溜まるので僕は結構ポジションを変えていますよ。
- ①ハンドル下側を持つポジション
- 上半身と下半身の繋がりを意識しやすく、大きな力を出しやすいです。後ろ乗りにしても体重をかけられるため、クランクの高い位置から踏め始められます。無理なく上体を下げられるため、空気抵抗も下げられます。
- ②ブラケットを持つポジション
- 基本となるポジションです。体が一番力を出せる関節の角度になるので、大きな動作のペダリングを意識できます。ペダルに体重を乗せやすいため、”踏み込む動作”を最低限に抑えつつ、大きなパワーを出せます。
- ③ハンドル上部を持つポジション
- 上半身が起きるので、ゆっくり走ったり登りでリラックスして走ることができます。重心が後ろに下がるため、前乗りになってペダルを踏み下ろすイメージのペダリングになります。登りで重心が後ろに下がり、体重を乗せづらくなる時にも有効です。前乗りになるため、大腿部の前側を使いやすくなります。
山本選手
僕の場合、運動強度に応じてライドポジションを変えるように心掛けています。例えばインターバルトレーニングをしている時の話になるのですが、流して走っていて(レストの状態から)、何も意識しないで高強度のペダリングをすると、ポジションが悪いままなのですぐにキツくなります。
具体的に言うと、太ももの前側にある筋肉をメインに使っちゃうから、すぐに疲れてしまう。全身を連動させるように意識し直すと、徐々に楽になってきます。
集団にいるときや流しのときは、身体のどこかに変な力が入らないように、リラックスした状態を心掛けます。畑中さんと重複しますが、同じ筋肉をずっと使うと疲労が溜まるので、使う部位を変えるようにしています。あと、出力を上げるときやアタックの時に備えて体力を温存するようにしていますね。
――ペダリングだけでなく、空気抵抗もパフォーマンスに直結する大きな要素ですね。レースではペダリングの効率はもちろん、空気抵抗にも目を向けてその都度、最適なライドポジションを取る必要があるのですね。
畑中選手と山本選手ともに、局所的に疲労が溜まらないように、ポジションや使う筋肉を変えていました。ロードレースは長丁場なので、いかに体力を温存するかという心掛けが、リザルトに大きく影響することが容易に想像できます。
登り坂でのペダリング
――平坦な道でのペダリングの次は、上り坂を走行するときに意識していることを教えてください。
畑中選手
登り坂を走るときって、空気抵抗の影響がほとんどなくなりますよね。空気抵抗がないので、平坦を走行するときよりライドポジションの自由度が高くなります。
僕の場合、空気をいっぱい吸いたいから上体を上げて、ライドポジションを高くとって高い位置からペダルを踏み込むようにしています。平坦の道では空気抵抗の影響があるのでできませんが、登りではポジションを気にすることなく思いっきり踏めますね。
極端な話、キツくなればなるほど「雑」と言うのか、ペダルに力を加えることにのみ注力します。あと、勾配に応じてダンシングとシッティングを使い分けますね。
ペダルを高い位置から踏み始められると、クランク1周あたりの踏んでいる時間を長くできます。パワー伝達にもムラがなくなり、ロスが減らせます。
- ①ペダルの上死点(時計で表すと12時)
- ペダリングにおいて、どうしても力を入れることができない位置です。この位置でのロスをいかに減らせて効率を上げられるかは、意識と前後の動作で変わってきます。
- ②2時の位置
- 体重を乗せてペダルを回し始められる位置です。この体重を乗せて踏める位置を、より12時に近づけらるように意識します。サドル高を上げたり、後ろ乗りにすることで踏み始めを上げられます。強度が上がって踏み始めの位置をもっと高くする必要が出てくると、前腿を使って蹴り出す動作も必要になってきます。
- ③3時の位置
- パワーが一番出せる体の角度であり、ペダルに一番体重が乗せやすく、クランクの円運動で一番効率よく力が加えられる位置です。この位置でパワーが出せるようにポジションを調整します。サドルが低すぎたり前過ぎたりすると、3時を過ぎたあたりで最大パワーを出すことになり、力をうまく推進力に伝えられません。サドルが高すぎたり後ろすぎたりすると、2時のあたりで真下に伝わる最大パワーが出されてしまい、ペダルを前に蹴り出す方向に力が逃げてしまいます。
- ④4時の位置
- この位置ではペダルに下後方への力を加える必要があります。しっかりと3時の位置で体重を乗せられていれば、ペダルが3時から6時(下死点)の間の位置でも体重を乗せることで下後方に力を加えられることになります。踏み始めがこの位置だと、下後方へ回ろうとするペダルに真下へ踏み込もうとしてしまうため、力のロスが生じてしまいます。
- ⑤ペダルの下死点(時計で表すと6時)
- この位置では、ペダルに対して重心が前にあるため、踏み込みの動作は下後方に力のベクトルが働きます。体重を残しつつ上手に脱力させることで、反対側の上死点にある脚が踏み込みの動作を始められます。
ところでダンシングについてなのですが、多くの人が4時の位置から踏んでいます(ペダルに力を入れ始める)。ダンシングはシッティングの時よりも、自分が思っている以上にパワーの掛かり始めが遅れてきます。
「ペダリングにおける身体の使い方」でお話ししたように、僕はシッティングのとき、2時の位置くらいから踏み込むことを意識していると言いました。ダンシングは、それよりさらに前から踏む必要があります。
自分が思っている以上に前から踏むことを意識して、ようやく3時の位置で踏めている感じになるんです。
山本選手
個人的な感覚なのですが、平坦よりも登りを走っている方がパワーを出しやすいし、ペダルへ力を伝えやすいですね。
平坦は丁寧にペダリングをするイメージ、一方登りは、多少雑でもペダリングを重視し過ぎず、ペダルに力が加わっていれば、それで良いのかなって思っています。乱暴に言うと、雑に踏んでも力さえ発揮していれば自転車は前に進むんですよ。
登りで丁寧にペダリングしようとすると、身体を動かすライン(使う筋肉の部位)が限定されてしまうので、局所的に疲労が溜まって、すぐに疲れてしまいます。
多少雑であっても力を発揮できるように、いろいろな筋肉を満遍なく使うことも重要です。使う筋肉を分散することで、高出力を維持しやすくなりますね。
あと、登りはダンシングが使えることも大きいですよね。上体を起こしてハンドルを引いて、バイクを左右に振る動作に制限がない。平坦の高速巡航のときは失速の原因になるから、上体なんて起こせないですからね。
ダンシングのときも、身体全体を使ってペダルを踏むようにしています。身体の中心に1本の軸があるとイメージして、骨盤を回しながらペダルへ力を伝えるイメージです。腰から踏み込むっていう感じですかね。
――お二人とも登り坂を走ることに関しては同じ見解でした。綺麗で丁寧なペダリングではなく、大切なのは、どうしたらより大きな力をペダルに伝えることができるか。
わたしのような一般サイクリストは、シッティングの時よりも、より早くペダルを踏み込むことを意識して、さらに身体全体でペダルを踏み込むことに集中すれば、それだけでパフォーマンスの向上が期待できそうです。
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