4.ペダリングにまつわるトレーニングの方法について | トップ・プロ直伝ペダリング講座

初心者から玄人まで、おそらくほとんどのサイクリストが抱える永遠のテーマ「ペダリング」。前回までの内容では、プロサイクリストのお二人から、ペダリングに関する目から鱗の知識を沢山お伺いすることができました。

ペダリング講座の最後のテーマとして、「じゃあ、一体何をしたら良いのか?」という実践面のお話をお伺いしていきましょう。

これまでのペダリングに関する内容を踏まえた、良いペダリングを実践するためのトレーニング方法についてです。

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適切なペダリングを習得するためのトレーニング方法

――適切なペダリングを体得するために、どのようなトレーニング法がありますか?また、プロの選手が実践しているトレーニングがあれば教えてください。

 

畑中選手

先ほど(「良いペダリングとは何か 後編」を参照)紹介した、「インナースプリントダッシュ」も良いトレーニングになると思いますが、「SFR※」っていう重たいギアで踏み込む練習が有効かなって思います。

簡単に説明すると、アウターギアにして、後ろのギアも極力重く、緩い登り坂をケイデンス40rpmくらいで登るトレーニングです。これって、もともと筋トレとされていました。

でも実際のところ、筋肥大を起こすほどの負荷はなくて、無意味なトレーニングと切り捨てたコーチもいました。でもその一方で、一部の選手間ではSFRやった後って何か良い感じがするっていう声もありました。

そう、このトレーニングは筋トレ(筋力アップ)の効果はなかったのですが、ペダリングの矯正に適していたんです。ゆっくりとペダルを回さざるを得ないので、結果的に上死点から思いっきりペダルを踏み込めるんです。

3時の位置でポンって踏むだけ(力を入れる)では失速してしまうので、上死点から下死点までしっかり踏まないといけない。ペダリング効率を上げるのに有効なので、僕たちプロ選手も結構やっていますよ。

※SFR(Slow Frequency Revolutions)について

畑中選手も紹介したように、可能な限り重たいギアで登り坂を登るトレーニング法です。これにより、適切なペダリング動作を身に付けることができます。畑中選手曰く、「とにかく踏み切らないと前に進まないような負荷を掛けることがポイント」だそうです。

まずは、斜度10%程度の登り坂で、ケイデンス40〜45rpmを目安に2分間登り×6セット(インターバル2分)を目標に取り組んでみましょう。 ポイントは、可能な限り重たいギアに設定してしっかり踏み込むことです。

ちなみに、畑中選手はSFRの後に、軽いギアで高回転のスプリントを数本実施するそうです。これにより、ペダリングがサウナの後の水風呂よろしく「整う」そうです。効率良くペダリングができていると実感できる状態になるのだとか、ぜひお試しあれ。

 

山本選手

SFRは低回転ですが、その反対の高回転のペダリングトレーニングも有効です。高校生の自転車競技を始めたばかりの頃なのですが、ペダリング効率なんて考えず、訳もわからずペダルを踏んでいるだけでペダリングが汚かったんです。

そこで課せられたトレーニングが「ローラー台の上で1分間の全力もがき」。チェーンが波打たないよう、チェーンステーにチェーンが当たらないように意識しながら高回転でペダリングをする。そうすると、上死点と下死点を通過する時に余計な動きがなくなり、ペダリングのムラがなくなっていきます。

ヨーロッパのチームに移籍したときに課せられたトレーニングが、ローラー台の上でケイデンス120rpmを維持して1時間のペダリング。ちょっとこれは極端なメニューですよね、負荷は無い状態なんですけど。40分くらい経過すると相当キツくなります。変な動きがあるとペダルが回らないので、強制的に無駄な動きが省かれていく。そんなトレーニングもあります。

綺麗なペダリングを体得することができれば、1時間なんて長時間やる必要もなくて、1日の練習メニューの中で5分もやれば、身体が綺麗なペダリングを思い出すようになります。

 

――重い負荷かつ低回転でペダリングをするトレーニング、一方で軽い負荷かつ高回転でペダリングをするトレーニング。正反対なアプローチから、適切なペダリングを獲得するという目的が一緒というのは面白いですね。

畑中選手が紹介されたSFR(Slow Frequency Revolutionsは力の入れ方を矯正し、山本選手が紹介されたトレーニングは身体の使い方の矯正と言えるのではないでしょうか。

自転車競技のレースシーンでは、シチュエーションに応じたペダリングが要求されます。一つのトレーニングに縛られず、様々な動きを通じて適切なペダリングを身につけることが大切と言えそうです。

 

ペダリングのために普段の生活で意識していること

――ところでトレーニング以外、自転車を降りた日常生活で意識していることはありますか。

 

畑中選手

あまり参考にならないですが、歩かないようにしています。歩くと、少なからずペダリングに影響があるんですよ。良いペダリングの感覚を残しておきたいっていうのがあって。

狙ったレースの一週間前からなんて、極力歩かないようにしています。もちろん気にせずに普通に歩く選手もいますけどね。普段はそんなことを意識していますね。

 

山本選手

以前は日常生活の中で体幹で身体を支える、体幹周りを意識するように心がけていました。でも最近では、それが身体に染み込んで自然とできるようになっているので、何かを意識的にしているっていうものはないですね。

当時やっていたことを紹介しますね。ヒトを横から見ると、上半身がS時に湾曲していますよね、何も意識しないで仰向けになると腰の部分が浮くと思います。そこを浮かさないように、お尻から背中のラインを地面にペタって押し付けます。そうすると、自然とへそのあたりに力が入ります。ここに力が入っている意識があれば、自然と体幹が安定します。

気が向けばこれをやって、体幹を安定させる意識付けをしていました。これなら手軽にやれますよね。

 

――自転車選手は歩かないって話を聞くことがありますが、まさに畑中選手がそうだったんですね。自転車選手がペダリングへの意識、感覚を研ぎ澄ませた結果そうなるのは確かに頷けますよね。傍から見たらわからないですが、自身の感覚と実際の動きにギャップをなくし、最高のパフォーマンスを発揮するための下準備と言えますね。

一方、山本選手にご紹介いただいた「体幹への意識」は、何だか武道を連想しちゃいました。日頃の小さな意識付けが積み重なり、それがパフォーマンスに繋がっているのですね。まるでイチロー選手のお言葉のよう。レースで最高のパフォーマンスを発揮するためには、日常の些細な行動の積み重ねが影響していると言えそうですね。

 

ペダリングにおいての左右差

――一つペダリングに関して気になっていることがありまして、おうかがいしてもよろしいですか。ヒトって誰しも利き手、利き脚がありますよね。ペダリングにおいてこの左右差ってない方が良いと思うのですが、是正する方法ってあるんですか。ペダリングにおける左右差についてどのようにとらえていますか?

 

畑中選手

良い左右差なのか、それとも悪い左右差なのか、まずはそれを考える必要がありますね。左右のペダリングバランスを計測できるパワーメーターが普及して、よくSNS上で「今日のライドは左右差0だったから良かった」なんて投稿を見かけるけど、果たしてそれが本当に良いことなのか。

僕の場合、左右の腕の長さが違うので既に左右差が存在しています。僕が求めているのは、いかに効率良く走れるか。ペダルを踏んでいる時の左右の比率が50:50になっていることが、理想とは限らないっていうことです。

例えば、ペダルを踏み込むときに片方の踵だけ下がってしまうという悪い癖があったとしましょう。怪我によって筋力バランスが崩れたことが原因でそうなったのであれば、それは矯正するべきだと言えますが、何がなんでも左右均等にこだわる必要はありません。

まずは左右差の理由を考えることが大事ですよね。仕方がないものなのか、それとも矯正することでパフォーマンスが向上するのか見極める必要があると思います。

 

山本選手

左右差を無理して無くしていく必要は無いですね。まずは身体に痛みがないっていうことが一番大事です。ペダリング動作における左右差が原因で身体に痛みが生じてしまっているのなら、修正が必要と思います。

もしそうではなく、骨格はヒトそれぞれ個性があるので、自然体でいて、特にトラブルがない状態であるならそのままで良いと思います。利き脚があることは自然なことなので、左右差で思い悩む必要はないのではないでしょうか。

 

――左右差の原因が一体何なのかを今一度考えることが大切ですね。そもそも、左右差イコール悪とは限らない。もし自身のペダリングに左右差があった場合、多角的にペダリングについて考えるきっかけになりますね。身体特性やペダリングのクセなど、競技力向上のエッセンスが詰まっているかもしれません。

 

「ペダリングにまつわるトレーニング法」まとめ

重い負荷をかけて低回転でペダリングをするトレーニングと軽い負荷で高回転のペダリングをするトレーニングと、実際にプロ選手が実践しているトレーニングを2つご紹介いただきました。

そして印象的だったのは、ペダリングにおける左右差について。素人目線だと、左右差が少なければ少ないほど適切なペダリングと連想しがちですが、一概にそれは正解と言えないようです。

畑中選手、山本選手お二人に共通してペダリングにまつわる自身の考えが確立されていました。まさに日頃から自転車競技と向き合い、自身のパフォーマンスの最大化を図り続けた賜物です。

世間にはトレーニング方法が数多く流布しています。両名を見習い、自身のペダリングの特徴は何なのか、そして自分自身に必要なトレーニングは何かを知ることも大切です。

これまでの講座でお話していただいた適切なペダリング動作、「身体で生み出した力を、あますことなくペダルへ伝え、自転車の推進力に変換する動き」を体得することがトレーニングの目的です。これを常に念頭において情報取集と実践を繰り返していきましょう。