ペダリング講座の最後のテーマとして、「じゃあ、一体何をしたら良いのか?」という実践面のお話をお伺いしていきましょう。
これまでのペダリングに関する内容を踏まえた、良いペダリングを実践するためのトレーニング方法についてです。
『トップ・プロ直伝ペダリング講座 Powered By KINAN Cycling Team』とは
――適切なペダリングを体得するために、どのようなトレーニング法がありますか?また、プロの選手が実践しているトレーニングがあれば教えてください。
畑中選手
先ほど(「良いペダリングとは何か 後編」を参照)紹介した、「インナースプリントダッシュ」も良いトレーニングになると思いますが、「SFR※」っていう重たいギアで踏み込む練習が有効かなって思います。
簡単に説明すると、アウターギアにして、後ろのギアも極力重く、緩い登り坂をケイデンス40rpmくらいで登るトレーニングです。これって、もともと筋トレとされていました。
でも実際のところ、筋肥大を起こすほどの負荷はなくて、無意味なトレーニングと切り捨てたコーチもいました。でもその一方で、一部の選手間ではSFRやった後って何か良い感じがするっていう声もありました。
そう、このトレーニングは筋トレ(筋力アップ)の効果はなかったのですが、ペダリングの矯正に適していたんです。ゆっくりとペダルを回さざるを得ないので、結果的に上死点から思いっきりペダルを踏み込めるんです。
3時の位置でポンって踏むだけ(力を入れる)では失速してしまうので、上死点から下死点までしっかり踏まないといけない。ペダリング効率を上げるのに有効なので、僕たちプロ選手も結構やっていますよ。
※SFR(Slow Frequency Revolutions)について
畑中選手も紹介したように、可能な限り重たいギアで登り坂を登るトレーニング法です。これにより、適切なペダリング動作を身に付けることができます。畑中選手曰く、「とにかく踏み切らないと前に進まないような負荷を掛けることがポイント」だそうです。
まずは、斜度10%程度の登り坂で、ケイデンス40〜45rpmを目安に2分間登り×6セット(インターバル2分)を目標に取り組んでみましょう。 ポイントは、可能な限り重たいギアに設定してしっかり踏み込むことです。
ちなみに、畑中選手はSFRの後に、軽いギアで高回転のスプリントを数本実施するそうです。これにより、ペダリングがサウナの後の水風呂よろしく「整う」そうです。効率良くペダリングができていると実感できる状態になるのだとか、ぜひお試しあれ。
山本選手
SFRは低回転ですが、その反対の高回転のペダリングトレーニングも有効です。高校生の自転車競技を始めたばかりの頃なのですが、ペダリング効率なんて考えず、訳もわからずペダルを踏んでいるだけでペダリングが汚かったんです。
そこで課せられたトレーニングが「ローラー台の上で1分間の全力もがき」。チェーンが波打たないよう、チェーンステーにチェーンが当たらないように意識しながら高回転でペダリングをする。そうすると、上死点と下死点を通過する時に余計な動きがなくなり、ペダリングのムラがなくなっていきます。
ヨーロッパのチームに移籍したときに課せられたトレーニングが、ローラー台の上でケイデンス120rpmを維持して1時間のペダリング。ちょっとこれは極端なメニューですよね、負荷は無い状態なんですけど。40分くらい経過すると相当キツくなります。変な動きがあるとペダルが回らないので、強制的に無駄な動きが省かれていく。そんなトレーニングもあります。
綺麗なペダリングを体得することができれば、1時間なんて長時間やる必要もなくて、1日の練習メニューの中で5分もやれば、身体が綺麗なペダリングを思い出すようになります。
――重い負荷かつ低回転でペダリングをするトレーニング、一方で軽い負荷かつ高回転でペダリングをするトレーニング。正反対なアプローチから、適切なペダリングを獲得するという目的が一緒というのは面白いですね。
畑中選手が紹介されたSFR(Slow Frequency Revolutionsは力の入れ方を矯正し、山本選手が紹介されたトレーニングは身体の使い方の矯正と言えるのではないでしょうか。
自転車競技のレースシーンでは、シチュエーションに応じたペダリングが要求されます。一つのトレーニングに縛られず、様々な動きを通じて適切なペダリングを身につけることが大切と言えそうです。
――ところでトレーニング以外、自転車を降りた日常生活で意識していることはありますか。
畑中選手
あまり参考にならないですが、歩かないようにしています。歩くと、少なからずペダリングに影響があるんですよ。良いペダリングの感覚を残しておきたいっていうのがあって。
狙ったレースの一週間前からなんて、極力歩かないようにしています。もちろん気にせずに普通に歩く選手もいますけどね。普段はそんなことを意識していますね。
山本選手
以前は日常生活の中で体幹で身体を支える、体幹周りを意識するように心がけていました。でも最近では、それが身体に染み込んで自然とできるようになっているので、何かを意識的にしているっていうものはないですね。
当時やっていたことを紹介しますね。ヒトを横から見ると、上半身がS時に湾曲していますよね、何も意識しないで仰向けになると腰の部分が浮くと思います。そこを浮かさないように、お尻から背中のラインを地面にペタって押し付けます。そうすると、自然とへそのあたりに力が入ります。ここに力が入っている意識があれば、自然と体幹が安定します。
気が向けばこれをやって、体幹を安定させる意識付けをしていました。これなら手軽にやれますよね。
――自転車選手は歩かないって話を聞くことがありますが、まさに畑中選手がそうだったんですね。自転車選手がペダリングへの意識、感覚を研ぎ澄ませた結果そうなるのは確かに頷けますよね。傍から見たらわからないですが、自身の感覚と実際の動きにギャップをなくし、最高のパフォーマンスを発揮するための下準備と言えますね。
一方、山本選手にご紹介いただいた「体幹への意識」は、何だか武道を連想しちゃいました。日頃の小さな意識付けが積み重なり、それがパフォーマンスに繋がっているのですね。まるでイチロー選手のお言葉のよう。レースで最高のパフォーマンスを発揮するためには、日常の些細な行動の積み重ねが影響していると言えそうですね。
――一つペダリングに関して気になっていることがありまして、おうかがいしてもよろしいですか。ヒトって誰しも利き手、利き脚がありますよね。ペダリングにおいてこの左右差ってない方が良いと思うのですが、是正する方法ってあるんですか。ペダリングにおける左右差についてどのようにとらえていますか?
畑中選手
良い左右差なのか、それとも悪い左右差なのか、まずはそれを考える必要がありますね。左右のペダリングバランスを計測できるパワーメーターが普及して、よくSNS上で「今日のライドは左右差0だったから良かった」なんて投稿を見かけるけど、果たしてそれが本当に良いことなのか。
僕の場合、左右の腕の長さが違うので既に左右差が存在しています。僕が求めているのは、いかに効率良く走れるか。ペダルを踏んでいる時の左右の比率が50:50になっていることが、理想とは限らないっていうことです。
例えば、ペダルを踏み込むときに片方の踵だけ下がってしまうという悪い癖があったとしましょう。怪我によって筋力バランスが崩れたことが原因でそうなったのであれば、それは矯正するべきだと言えますが、何がなんでも左右均等にこだわる必要はありません。
まずは左右差の理由を考えることが大事ですよね。仕方がないものなのか、それとも矯正することでパフォーマンスが向上するのか見極める必要があると思います。
山本選手
左右差を無理して無くしていく必要は無いですね。まずは身体に痛みがないっていうことが一番大事です。ペダリング動作における左右差が原因で身体に痛みが生じてしまっているのなら、修正が必要と思います。
もしそうではなく、骨格はヒトそれぞれ個性があるので、自然体でいて、特にトラブルがない状態であるならそのままで良いと思います。利き脚があることは自然なことなので、左右差で思い悩む必要はないのではないでしょうか。
――左右差の原因が一体何なのかを今一度考えることが大切ですね。そもそも、左右差イコール悪とは限らない。もし自身のペダリングに左右差があった場合、多角的にペダリングについて考えるきっかけになりますね。身体特性やペダリングのクセなど、競技力向上のエッセンスが詰まっているかもしれません。
重い負荷をかけて低回転でペダリングをするトレーニングと軽い負荷で高回転のペダリングをするトレーニングと、実際にプロ選手が実践しているトレーニングを2つご紹介いただきました。
そして印象的だったのは、ペダリングにおける左右差について。素人目線だと、左右差が少なければ少ないほど適切なペダリングと連想しがちですが、一概にそれは正解と言えないようです。
畑中選手、山本選手お二人に共通してペダリングにまつわる自身の考えが確立されていました。まさに日頃から自転車競技と向き合い、自身のパフォーマンスの最大化を図り続けた賜物です。
世間にはトレーニング方法が数多く流布しています。両名を見習い、自身のペダリングの特徴は何なのか、そして自分自身に必要なトレーニングは何かを知ることも大切です。
これまでの講座でお話していただいた適切なペダリング動作、「身体で生み出した力を、あますことなくペダルへ伝え、自転車の推進力に変換する動き」を体得することがトレーニングの目的です。これを常に念頭において情報取集と実践を繰り返していきましょう。
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――今回のテーマは自転車のポジションについてです。これもまた奥の深いテーマですね。ポジションをいじってみて最初は良い感じだなって思っても、少し経ったら「あれっ、何かしっくりこないなあ」なんてことがしょっちゅうあります。お二人は自転車のポジションをどうやって決めていますか。また、何かこだわりはありますか。
山本選手
僕は全くポジションをいじらないです。新しいバイクに変えても、前のバイクと全く同じポジションにしています。
もともと僕のポジション(サドル位置)って、大学を卒業するまで、結構低めで後ろに引いていました。ただそのポジションって、膝や腰に負担が掛かっていて定期的に痛みが出ていたのですね。故障とまではいかないけど、トラブルを抱えていました。
ちなみに当時のポジションの利点は、風を正面から受ける面積を小さくすることができるので、空気抵抗が小さくなることでした。
大学を卒業してプロになり、選手生活を続けていく上で故障に繋がりかねないトラブルを抱えているのも良くないと思い、ヨーロッパのチームに移籍してから、サドルを前に出して上へ上げるポジションへ徐々に変えていきました。
そうすれば当然、ペダルの踏み方も変わりますよね。より全身を使って踏み込めるようになり、痛みもなくなりました。そこからポジションは変えていません。
畑中選手
サドル高の定説、「股下×0.88」ってあるじゃないですか、ショップでバイクを購入した最初のポジションですね。多くの人はひとまずこれにしておけば問題ないです。
でも、ビギナーが自転車乗るのに慣れてくると、サドルを上げる人が多くいます。これは僕の見解ですが、高いサドル高は見た目が格好良いっていうのと、踏み込むポイントが自動的に上がるのが要因だと思っています。
4時や5時の位置から踏んでいたが、サドルを上げることで自然と3時の位置に近づいてペダリング効率が良くなる。これがサドルを上げたがる理由なんじゃないのかなって。
そこからその人たちは、さらにレベルが上り、体幹や引き足を使うことに意識が向きます。どうしたらもっと効率良くペダリングできるか模索するのですね。
面白いことに、もっとペダルを踏み込もう、体幹や引き足をもっと効率良く使おう、全身を使おうと意識が向くと、最初のサドル高に近づいて行くんです。
あるプロサイクリストの独自リサーチによると、プロの選手は一般のサイクリストよりもサドル高が低いそうですよ。どれだけ身体を使えているかを指標にして、サドル高を決めるっていう方法もありかもしれませんね。
――畑中選手の考察は面白いですね。サドル高で自分のペダリングスキルが分かっちゃうかもしれない。素人感覚で高いサドル高=上級サイクリストっていうイメージを勝手に持っていましたが、一概にそういうものではないのですね。むしろ低めのサドル高が高いペダリング技術の現れかもしれない。選手それぞれに意図があると思いますが、サドル高とペダリングは密接に関係していることがわかりました。
――ところで自転車のポジションって頻繁に変えるものですか。ポジションを調整するきっかけやタイミングがあったら教えてください。
畑中選手
僕は基本的にポジションを変えることはありませんね。チームが変わり自転車が変わっても、とりあえず前のチームで乗っていたときと同じポジションにします。そこから微調整をすることもありますが、やっても1、2mm程度かな。頻繁に変えるってこともしないですね。
僕の意見として、自分でどのポジションにしたらどの筋肉を使えるかを知っておくことが大切だと思っています。僕は長いこと自転車競技をやっているので、ポジションは固定しています(自分の中の最適解があります)が、これって経験によってどんどん変わると思います。
競技レベルや筋力、出場する種目に応じてどんどん変更していけば良いと思いますよ。
山本選手
僕も基本的にポジションはいじりませんね。先ほどもお話ししましたが、今のポジションに行き着いた理由も、痛みが無くて力を出せるポジションを追求したものなので。
そうそう、練習のときに身体が痛くなることが時々あります。フォームが悪いわけでもないのにおかしいなあって思って自転車をチェックしたら、あるパーツがヘタっていたのですね。それがポジションのずれの原因でした。頭の中で思っている以上に、身体がポジションを理解しているっていうことがあります。
人それぞれ骨格が違うので、共通のポジションっていうものはありませんが、体に痛みが出ないということを最優先にして、最低限のエアロポジションはキープしつつ、そこからよりペダルを踏み込めるポジションを追求して行くのが良いのではないでしょうか。
――お二人ともポジションを調整することはまず無いのですね。プロ選手ゆえに、培った経験から自分自身の最適解があって、今のポジションに行き着いたってことですね。私のような修行の身は、最適なポジションを探す旅がまだまだ続きそうです。
さて、今回のテーマでは、特別にもう一名からお話しを伺ってみたいと思います。2020シーズンまでKINAN Cycling Team(現KINAN Racing Team)で活躍をした、現Champion Systemスタッフの椿 大志さんです。どうやら自転車のポジションについてどうしても話したいことがあるとか。
椿
そうですね、昨年競技を引退して、トレーニング時間が大幅に減ってしまいました。身体の柔軟性と筋力がだいぶ落ちたなって、ペダリングをしていて感じますね。
それを補おうっていう意図もあって、現役時代よりサドルを低く、そして後方へ移動させました。後ろ乗りのポジションです。
後ろ乗りのポジションは、ペダルに体重をかけることが難しくなります。ですがペダルに力を加える時間を前のり(サドルが前方にあるポジション)の姿勢より、確保することができるメリットがあります。
ペダルに力を加えるポイントが後ろに移るので、極端な話、11時くらいの位置からペダルを踏み込むことができる感覚になります。それでも、あまりに体重をかけることが難しいので、それを補うためにステムが低く、遠くになりました。いわゆる「昔乗り」と言われるフォームになりつつあります。
でも、このフォームが今後変わる可能性も、もちろんあります。最近、シクロクロスを本格的に再開したのですが、ペダルに体重を乗せて、よりトルクを掛けることができるポジションにしたいなって思い始めています。
種目や、乗る自転車が持つフレームの特性によってもポジションっていうのは変わると思います。自分の身体と対話していく感じですね。
後ろ乗りで活かせるペダリング
前乗りで活かせるペダリング
――椿さんも意図があってポジションを変更したのですね。引退してからポジションが変わった経緯は、先ほど畑中選手が仰っていたことを、そのまま実行されていましたね。筋力や種目に応じてその時の最適解を見つけ出す。椿さんのお言葉をお借りすると、「自転車のポジションは自身の身体との対話」と言えますね。
テーマ3では、「自転車のポジション調整について」お話を伺いました。お二人共、ポジションをほとんど変えることはなく、固定されていた事が印象的でした。
その要因は、豊富な経験に由来しており、自転車のポジションがどのようにペダリングに影響を与えるのか知識として蓄積しており、自身の最適なポジションを導き出した結果と言えそうです。
基本のサドル高は「股下×0.88」これをスタート地点にして、自身のペダリングスキルや筋力、競技レベルに応じて、最適なポジションを日々探求していく必要がありそうです。
ペダリング講座の最後のテーマは「ペダリングにまつわるトレーニング法について」です。
]]>2つ目のテーマである「良いペダリングとは何か」の前編では、平坦な道や登り坂でのペダリングについてお話をうかがいました。
後編は、アタックやスプリント、独走状態でのペダリングについてです。テーマに関連してスプリントの練習法やエアロポジションについても教えてくれました。
『トップ・プロ直伝ペダリング講座 Powered By KINAN Cycling Team』とは
――もっとレースシーンにフォーカスした質問をさせてください。レース中にアタックを掛けるときや、レースの最終局面でよく見かけるスプリントのときって、何か意識をされていますか。
畑中選手
スプリントのときって、思いつき(反射的に、瞬時の判断)でポンポン動くので、練習でも敢えてその動きをやっています。練習するから身体がその動きを覚えて、レースでも最適な動きを反射的に再現することができます。
10秒の全力もがきは練習メニューとして普通ですが、皆さんにはぜひ「インナースプリントダッシュ」をやってもらいたいですね。どのようなメニューかと言うと、斜度3、4%程度の下り坂で軽いギア(インナーギア)にして行う、短時間のスプリントです。
1回5秒くらいでケイデンスは200rpm以上が目標です。「インナースプリントダッシュ」をやると、スプリントのときの身体の使い方を覚えることができますよ。
山本選手
僕はスプリンターというよりも、脚質はアタッカーです。平坦でも登り坂でも共通して、上半身は土台の役割です。テーマ1の「ペダリングにおける身体の使い方」でもお話ししましたね。
下半身で生まれる力を受け止めることができるように、腹筋、腕をガッチガチに固めて、上半身が動かないようにしてペダルを踏み込む。この動きを練習で身体に覚えさせます。
反射的にこのフォームにしたらこの動きをするっていうように、無意識のレベルで身体を動かせるようにします。ペダルを踏んだ時に生まれる反力を上半身で受け止めたら、次に反対の脚でペダルを踏み込むっていうイメージですかね。
脚質の特徴
そのほかに登りが得意な「クライマー」やTTなど平坦な道での巡航スピートに自信のある「ルーラー」、万能で苦手のない「オールラウンダー」などがあります。
――畑中選手にはスプリント、山本選手にはアタックに関するお話をうかがいました。そのシチュエーションで必要な動きを練習の段階で身体に覚え込ませるっていう点は共通していますね。レースで最高のパフォーマンスを発揮するためには、やはり練習あるのみなのですね。
――もう一つ、レースシーンで意識していることについて教えてください。集団から抜け出して、独走状態のときって何を意識していますか。
畑中選手
独走のときは、ペダリング以外に他の要素が大きく絡んでくるから難しいですねぇ。ペダリングの綺麗さっていうのも確かに重要だけど、それとエアロを比較したら、僕の場合ですけどエアロを重視するかもしれないです。ライドポジションやコースの地形を気にして、ペダリングの優先順位はその次くらいに来るかな。
前提として、今まで説明した無駄のない、効率的なペダリングを実践していますけど。そこからさらに、独走用に特別ペダリングを変更しているっていうことはないです。ギアが少し重くなる程度かな。
空気抵抗を減らすためには、上半身と前腕部をできるだけ水平に保ちます。前からの風を受ける面積を少しでも少なくするためです。
速度が上がれば上がるほど、空気抵抗と必要なパワーは加速度的に上がります。このポジションに近づけると空気抵抗は減らせますが、パワーが出しにくくなります。
普段からエアロポジションでの練習もすることで、エアロポジション時のペダリング効率やパワーの低下を最小限に留めることができます。実際のレースでは、空気抵抗の削減とパワーの出しやすさの折り合いを状況に合わせて対応させます。
山本選手
独走している状態って個人TT(選手一ひとりが一定の時間差でバラバラにスタートして単独走によるタイムを競う競技)と基本的に一緒なので、速度にムラがないように、一定の速度をキープすることを意識します。
速度のムラはつまりパワーロス、効率の悪さに繋がるので。あと、重たいギアを結構使いますね。重いギアのほうが巡航速度は安定しやすいのでジワーって踏み込めます。
ケイデンスも若干落ちますね。ケイデンスが落ちると上死点と下死点を通過する回数が減るので、自ずとそこで必ず生じてしまうロスを抑えることができます。ケイデンスが上がるほど、パワーロスが大きくなりやすいです。
独走は人が回りにいる状況ではないので、自分の1番速いペースで走ることが最重要です。
――お二人とも、独走のときはギアを重めにするんですね、しっかりと踏み込むことがキーポイントみたいです。 重たいギアを選択して、巡航速度を一定にすること(速度のムラをなくすこと)を意識すれば、自ずとパワーロスの少ない良い走りができそうです。
テーマ2では、「良いペダリングとは何か」ということについてお話を伺いました。良いペダリングを端的にまとめると、状況に応じてペダリングを使い分ける力と言えそうです。引き出しの多さとも言えますね。
ロードレースでは、刻々と変わるシチュエーションの中で、その状況に応じて最適な走り=ペダリングが要求されます。引き出しの数が多いほど柔軟に対応することができるので、レースを優位に進めることが可能になります。
良いペダリングとはつまり、引き出しの多さ。経験が物を言う部分も多分にありますが、テクニカルな部分は日頃のトレーニングで習得できそうです。
テーマ3では、「自転車のポジション調整について」という自転車のセッティングやポジションについてお話をうかがいました。
]]>様々なシチュエーションごとに、ペダリングを切り替えるテクニックや引き出しの多さを総称して「良いペダリング」と定義します。テーマ2の「良いペダリングとは何か」では、シチュエーションに応じたペダリングについてのお話をうかがいました。
『トップ・プロ直伝ペダリング講座 Powered By KINAN Cycling Team』とは
――「良いペダリングとは何か」という、漠然とした、一概に答えることが難しいテーマだと思います。シチュエーション毎に細分化して、お話をうかがっていきたいと思います。まず始めに、平坦な道路を走行している時に意識することは何ですか。
畑中選手
平坦を走ると一言で言っても、集団の中で流して走ることもあれば、集団を引っ張るために出力を上げるとき、独走など色々なシチュエーションがありますよね。
平坦を走るときはペダリングの効率以外に、空気抵抗も大きく関係してきます。窮屈な姿勢、エアロポジションを強いられるシーンも多いです。
レースのときって、ペダリングの効率を追求することが最善とは言えません。乗車姿勢を窮屈にして出力が少し落ちたとしても、エアロポジションを取った方が、結果的にタイムが良くなることもあります。自身が発揮する出力と、空気抵抗のバランスを意識しています。
運動強度やシチュエーションに応じて、ペダリングとライドポジションを変えています。あと、走行中のフォームがずっと一緒だと、疲労が局所的に溜まるので僕は結構ポジションを変えていますよ。
山本選手
僕の場合、運動強度に応じてライドポジションを変えるように心掛けています。例えばインターバルトレーニングをしている時の話になるのですが、流して走っていて(レストの状態から)、何も意識しないで高強度のペダリングをすると、ポジションが悪いままなのですぐにキツくなります。
具体的に言うと、太ももの前側にある筋肉をメインに使っちゃうから、すぐに疲れてしまう。全身を連動させるように意識し直すと、徐々に楽になってきます。
集団にいるときや流しのときは、身体のどこかに変な力が入らないように、リラックスした状態を心掛けます。畑中さんと重複しますが、同じ筋肉をずっと使うと疲労が溜まるので、使う部位を変えるようにしています。あと、出力を上げるときやアタックの時に備えて体力を温存するようにしていますね。
――ペダリングだけでなく、空気抵抗もパフォーマンスに直結する大きな要素ですね。レースではペダリングの効率はもちろん、空気抵抗にも目を向けてその都度、最適なライドポジションを取る必要があるのですね。
畑中選手と山本選手ともに、局所的に疲労が溜まらないように、ポジションや使う筋肉を変えていました。ロードレースは長丁場なので、いかに体力を温存するかという心掛けが、リザルトに大きく影響することが容易に想像できます。
――平坦な道でのペダリングの次は、上り坂を走行するときに意識していることを教えてください。
畑中選手
登り坂を走るときって、空気抵抗の影響がほとんどなくなりますよね。空気抵抗がないので、平坦を走行するときよりライドポジションの自由度が高くなります。
僕の場合、空気をいっぱい吸いたいから上体を上げて、ライドポジションを高くとって高い位置からペダルを踏み込むようにしています。平坦の道では空気抵抗の影響があるのでできませんが、登りではポジションを気にすることなく思いっきり踏めますね。
極端な話、キツくなればなるほど「雑」と言うのか、ペダルに力を加えることにのみ注力します。あと、勾配に応じてダンシングとシッティングを使い分けますね。
ところでダンシングについてなのですが、多くの人が4時の位置から踏んでいます(ペダルに力を入れ始める)。ダンシングはシッティングの時よりも、自分が思っている以上にパワーの掛かり始めが遅れてきます。
「ペダリングにおける身体の使い方」でお話ししたように、僕はシッティングのとき、2時の位置くらいから踏み込むことを意識していると言いました。ダンシングは、それよりさらに前から踏む必要があります。
自分が思っている以上に前から踏むことを意識して、ようやく3時の位置で踏めている感じになるんです。
山本選手
個人的な感覚なのですが、平坦よりも登りを走っている方がパワーを出しやすいし、ペダルへ力を伝えやすいですね。
平坦は丁寧にペダリングをするイメージ、一方登りは、多少雑でもペダリングを重視し過ぎず、ペダルに力が加わっていれば、それで良いのかなって思っています。乱暴に言うと、雑に踏んでも力さえ発揮していれば自転車は前に進むんですよ。
登りで丁寧にペダリングしようとすると、身体を動かすライン(使う筋肉の部位)が限定されてしまうので、局所的に疲労が溜まって、すぐに疲れてしまいます。
多少雑であっても力を発揮できるように、いろいろな筋肉を満遍なく使うことも重要です。使う筋肉を分散することで、高出力を維持しやすくなりますね。
あと、登りはダンシングが使えることも大きいですよね。上体を起こしてハンドルを引いて、バイクを左右に振る動作に制限がない。平坦の高速巡航のときは失速の原因になるから、上体なんて起こせないですからね。
ダンシングのときも、身体全体を使ってペダルを踏むようにしています。身体の中心に1本の軸があるとイメージして、骨盤を回しながらペダルへ力を伝えるイメージです。腰から踏み込むっていう感じですかね。
――お二人とも登り坂を走ることに関しては同じ見解でした。綺麗で丁寧なペダリングではなく、大切なのは、どうしたらより大きな力をペダルに伝えることができるか。
わたしのような一般サイクリストは、シッティングの時よりも、より早くペダルを踏み込むことを意識して、さらに身体全体でペダルを踏み込むことに集中すれば、それだけでパフォーマンスの向上が期待できそうです。
後編はこちら
]]>1つ目のテーマである「ペダリングにおける身体の使い方」の前編では、上半身の使い方や下半身との連動についてお話をうかがいました。
今回の後編は、一度は気になるであろう、ペダリング時の踵(足首)の固定についてと疲労時のペダリングのコツなどについてお聞きしました。
『トップ・プロ直伝ペダリング講座 Powered By KINAN Cycling Team』とは
――少し横道に逸れてしまいますが、巷の噂で「ペダリングのときに踵(足首)を固定すべきだ」っていう話を聞くんですが、それってどうなんでしょう? 踵は動かないように意識したほうが良いですか?
山本選手
ペダリング動作では、踵の上下動が必ず起きます。ふくらはぎに力を入れて無理に固定すると、脚全体の自由度がなくなってしまいます。さらにふくらはぎに疲労も溜まりやすい。ペダリングの出力のメインは、先ほどもお話ししたように、お尻とももの裏の筋肉です。ふくらはぎも連動させるように使うので、僕は踵が上下動します。
例えばペダルを踏むときに、必要以上に踵が下がる(足首が背屈した状態)、ペダルが上死点に来て、それより上に行かないのに、踵を上げる(足首が底屈した状態)動作は、力の無駄遣いなので勿体無いです。 綺麗にペダルを回せていれば、踵の多少の上下動は気にすることはないと思います。
畑中選手
踵は固定した方が良いという考えは違いますね。元喜(山本選手)が言ったように、ペダルを踏む時に踵が下がっているっていうような人は筋力不足やポジションの悪さが考えられますが、「踵を固定」っていうのは違うと思います。動いても良いです。
――踵(足首)の動きという、どちらかと言うとミクロな部分はそんなに気にしないでよさそうです。私のような一般サイクリストは、お尻ともも裏の筋肉を使って、2時の位置からペダルを踏むことに集中したほうがパフォーマンスが上がりそうです。
――長い時間自転車に乗っていると、疲れてきてペダリングが何か悪くなってきた、効率落ちているなぁって感じることが多々あります。というか毎回そうなんです。
疲れてきても綺麗にペダリングをするためにはどうしたら良いですか?コツや意識していることってありますか?
畑中選手
トレーニングの一環で、ペダリングの効率やパワーを計測するマシンを使うのですが、効率の悪い動き、パワーロスに繋がる動きが分かります。レースのキツい時、脳裏にその時の動きが浮かんでくるんですよ。
動きを直そうっていう気づきがあると、やっぱりちょっとは変わりますよね。意識の問題になってくると思いますが、疲れてきた時ほど効率上げて何とかしたいと思いますよね。
個人的な話になってしまうのですが、僕は昔テニスをやっていたので右腕の方が長いです。右腕が長いので、シンメトリーにハンドルを握ると右肩が上がっちゃいます。
普段のサイクリングでは、右肩が上がらないようにしています。ですがレースの時、キツくなってくると自然と右肩が上がってくるんですね。それでバランスを取ろうとして勝手に頭が横に傾く。
自然とそういうフォームになっているのですが、考えてみると、パフォーマンスを維持するために、身体がキツい状況の中で1番力を発揮できる方法を知っているかもしれませんね。
山本選手
ペダリングの乱れって、それがケイデンスの乱れに、そしてホイールの回転のムラにつながりますよね。
それであれば逆説的に考えてみて、キツい時でも一定の速度でムラなくスーッとバイクを進ませることができていれば、ペダリングは乱れていなと考えることができると。なので、キツい時ほど、ムラのない一定の速度で走ることを意識します。
キツい時に綺麗にペダリングをしようと思っても難しいですよね、僕はできないので、速度を一定に保つ意識を持つようにしています。
――サイクリングで疲れてくる状況、レースシーンに置き換えると、キツい状況でパフォーマンスをいかにして維持するかっていうところになると思うのですが、そのアプローチは選手によって違うのかもしれませんね。
畑中選手のように、自分の身体にあった楽なポジションを感覚的に体得するのか、もしくは山本選手のように意識的に効率の良いペダリングをしようと模索をするのか。山本選手が意識している一定速度を保つというアプローチはすぐに試せますね。
テーマ1では「ペダリング時における身体の使い方」について、前編と後編の2回にわたって、畑中選手と山本選手にお話をうかがいました。
選手それぞれに独自の理論がありますが、自身の持つ体重や筋力を、いかに無駄なくペダルへ伝えて推進力に変換するのかが大切になります。
そのためには、お尻ともも裏にある筋肉を出力のメインにして、2時の位置からペダルを踏み始める。上半身はお腹に力を入れて固定し、パワーロスを極力減らすためのサポート役という意識が必要になります。
テーマ2では、「良いペダリングとは何か」というさらに一歩踏み込んだ、より実践的なお話しをうかがいたいと思います。
]]>トップ・プロ直伝ペダリング講座では、「ペダリング時における身体の使い方」、「良いペダリングとは何か」、「自転車のポジション調整について」、「ペダリングにまつわるトレーニングについて」、以上4つのテーマに分けて講座を進めてきます。
自転車を買ったばかりのビギナー層から、レースで上位を狙うシリアスレーサーにいたるまで、多くのサイクリストにとってペダリングは永遠のテーマです。
ペダリング講座では、ペダリングの基本動作をしっかりと身体で覚えるためのKnow Howをお伝えします。基本をしっかりとマスターして、走行状況や走り方に応じたペダリングができるようになれるような内容になっています。
初回である今回は、「ペダリング時における身体の使い方」についてです。前編と後編の2回に分けて掲載していきます。
『トップ・プロ直伝ペダリング講座 Powered By KINAN Cycling Team』の概要はこちら
© KINAN Cycling Team / Syunsuke FUKUMITSU
2015年に発足。UCIコンチネンタルチームとして、UCIアジアツアーを中心に海外でも活躍し、日本国内ではJBCF(日本実業団競技連盟)のレースにも参戦する、国内トップクラスのチーム。和歌山県新宮市の株式会社キナンがメインスポンサーであり、チーム運営も行っています。
畑中 勇介 選手
2017年ロードレース日本チャンピオン
2021年KINAN Cycling Teamに加入
ジュニア時代から多くの国際大会で活躍。幾多のレースで培った豊富な経験に基づく、卓越したレース感と勝負を決する脚力を武器とする。
山本 元喜 選手
2018年ロードレース日本チャンピオン
2017年KINAN Cycling Teamに加入
アタックや逃げを得意とし、平坦から山岳までコースレイアウトを問わず戦える走力を武器とする。
今回の講座では、適切なペダリング動作とは、「身体で生み出した力を、あますことなくペダルへ伝え、自転車の推進力に変換する動き」と定義します。適切なペダリングをするためには何を意識するべきでしょうか?
――それではよろしくお願いします。 ペダリングの動作って、初心者から見たらただ交互にペダルを踏んでいるだけに見えてしますのですが、ペダリングという動作を行うときに、何か意識していることや気をつけていることってありますか。
畑中選手
「今自分が持っている力を、いかに楽をして、最大限に使えるか」っていうことを意識していますね。出力の時(ペダルに力を加える時)、自分の体重や筋力を無駄なくペダルに伝えることが大切です。ロードレースは競技時間が長いので、例えば集団内で体力を温存しながら走行する時のように、いかに力を使わないで自転車を進めることが出来るかを考えることも必要になります。
山本選手
自分の場合、身長が低いっていうこともありますが、出力を脚だけに頼るのではなく、身体全体で発揮される力をペダルに伝えるように意識しています。
繰り返しになっちゃいますが、身長が低いと、脚で発揮される力だけでは勝負できない可能性があるんですよ。なので、いかに身体全体を使って大きな力を発揮するかが大切です。
――なるほど。おぼろげながら学生時代、物理の授業を思い出しちゃいました。理論上、同じ筋肉量を持っていても、身長が高い人の方が発揮される力は大きくなりますもんね。
畑中選手も言っていたように、ロードレースは競技時間が長いです。ペダルを1回転させる動作の中にごく僅かなパワーロスがあったとしたら、それが競技時間に比例して積み重なっていくので、リザルトに影響することが想像つきます。
100発揮した力を、余すことなく100ペダルに伝えて、推進力に変換させる意識を持つことはとても大切ですね。 そして、身体全体を使っていかに大きなパワーを発揮できるか考えることも、パフォーマンスに影響を与えそうです。
――それでは具体的にどのようにして身体を使い、ペダリングしているのかを聞いていこうと思います。まずは上半身の使い方で意識していることがあったら教えてください。
畑中選手
僕は肩の使い方を意識しています。そもそもペダリング動作って右脚と左脚を交互に動かしますよね、それって身体の重心が左右に振れることになります。
言い換えると、その重心の揺らぎが自転車の推進力の元になると考えることができるんですね。肩を動かして、その重心の揺らぎを滑らかにさせる、サポートするイメージです。
自転車に乗っているとしましょう。
右脚でペダルを踏むと、右に重心が移動しますよね、左肩をクッと身体の内側に入れるように軽く動かして、移動した重心を身体の中心へ引き戻します。今度は左脚でペダルを踏むので左に重心が移動します、そうしたら右肩を動かす。
脚の動きに肩を連動させるんですね。自転車も身体の重心の揺れに併せて左右に振れますよね、それでも腕と頭は固定します。あくまでも肩だけ使うように心掛けています。
今話したことは基本となる部分です。
巡航くらいのペースならこれで問題ないですね、アタックのように強度が上がったら、初めて腕の力を動員させます。なぜかと言うと、アタックの時ってより強い力でペダルを踏みますよね、物理の話になりますが、ペダルを踏んだエネルギーと同じエネルギー量が自分の身体に返ってきます。
つまり、踏む力が大きければ大きい程、重心の振れ幅も大きくなります。左右に大きく振れる重心を引き戻すために腕の力が必要になるって訳です。
山本選手
僕は上半身を「脚で発揮される力の土台」と考えています。上半身はブラさない、安定させる。それを意識することで、身体全体を使って力を発揮することができます。そして、力を発揮するための土台となる上半身は、走り方や発揮する力に応じて使い方や役割を変えています。
まずは巡航のように運動強度が低い時についてお話ししますね。お腹に力を入れるようにして体幹を固定し、肩回りはリラックスさせます。身体の中心部分が走行ラインに対してブレ過ぎていないように気をつけます。また、体幹が固定して安定するので、走行中に路面から受ける衝撃を吸収しやすくなります。
次にアタックのように出力を上げる、加速するときは、体幹はもちろん、肩回りと腕、身体とハンドルを繋ぐラインをがっちりと筋肉に力を入れて固めるようにします。感覚的な話になりますが、がっちりと固まった上半身で下半身に力を伝えるイメージです。
――それぞれの独自理論が登場しました。トップ選手であっても、それぞれ意識することが違うんですね。
畑中選手が意識している肩の使い方って初めて聞いたのでとても新鮮でした。ペダルに加える力は、ほとんどが下半身の筋肉で発揮されますよね、上半身はその発揮された力を無駄なくペダルへ伝える、サポートの役割を担っていると考えることができそうです。
上半身の使い方の違いとライダーの傾向
両方ともペダルを踏み込む力をペダルに無駄なく伝える方法です。どちらが正しいということはありません。分かりやすく理解できたり、共感できた考え方を取り入れていただければと思います。
――何だかペダリング時における上半身の使い方が見えてきました。 つぎに、出力のメインとも言える下半身の使い方について意識していることやすべきことを教えてください。さらに、上半身と下半身を連動させるために何か気をつけることがあれば教えてください。
山本選手
先ほどの上半身の使い方について説明した時にもお話ししましたが、上半身が全身の力を発揮する上での土台であることが大前提にあります。もちろん下半身で発揮する力がメインになりますけどね。
僕は「ペダルをただ単に踏むのではなく、ペダルを脚全体で押し下げる」イメージでペダルを回すことを意識しています。どうしてもただペダルを踏むっていう意識になると、太ももの前側にある筋肉を使いがちになってしまうんです。 太ももの前側にある筋肉は、瞬発的に大きな力を発揮することができるけど、長時間その力を維持することが難しいんですね。
長時間、高い出力を維持するためには、身体の背中側、太ももの後ろにある筋肉やお尻の筋肉を使う必要があります。脚全体を使ってペダルを押し込む、言い換えると股関節からペダルへ力を伝えるイメージにすると、身体の背中側にある筋肉を使うことができますよ。
――持久系スポーツの代表とも言える、ロードバイクの選手やマラソンの選手って正面から見るとスマートだけど、横から見るとお尻のあたりがっちりしていますよね。 お尻ともも裏の筋肉を如何に使うかが大事なんですね。
山本選手
そうですね。上半身と下半身をどのようにして連動させるかについてなんですが、僕の場合、身長が低い分、どうしても下半身で発揮できる出力の絶対値が低いので、上半身の力も動員させるかを意識するようにしています。
ある理論によると、ヒトの筋肉は一つ一つが単体で存在しているわけではなく、相互に繋がりを持って連動していると言われています。足の裏からふくらはぎ、ハムストリングス、お尻、背中と繋がり頭部、そして眉毛の上まで1本のラインのように筋肉が繋がっている、連動しているっていう説を僕は信じていて。
この考えをどうやってペダリング動作に落とし込むかっていうと、ペダルを踏むとき、お尻ともも裏にある筋肉をメインに使いますが、それを補足するように背筋や、ごくごく僅かな力かもしれませんが首元にある筋肉を動員させることを意識します。
さらに、ペダルを踏むときに身体が左右にブレるのはダメなので、土台である上半身ですね、お腹に力を入れて体幹を固め、上半身と下半身を一体にしてペダルに力を加えるようにしています。
畑中選手
元喜(山本選手)が筋肉にまつわる話をしたので、僕は意識やイメージについてお話ししますね。自分の体重、筋力を効率良く自転車の推進力に変換するには、ペダルに力を入れるポイントがとても大切になります。 ご存じの方も多いと思いますが、ペダルに1番力が加わるポイントって3時の位置ですよね、まずはこれを意識します。
大抵の人は、それを意識しなくなっちゃうと力を入れるポイントが4時、5時とどんどん下がり、ペダリング効率も下がっちゃうんです。一般のサイクリストを見ると、3時に最大パワーを出せている人って結構少ないんですよね。
どうしたら良いかと言うと、3時に最大パワーを発揮するために、2時くらいの位置からペダルに力を入れる、ペダルを踏み始める意識を持ちます。踏み始めてからパワーが伝わるまでって意外と時間が掛かるんですよ。
ペダルを踏み込んで6時(下死点)の位置を通過した後の引き足については、軽くお腹に力を入れて、脚ではなく体幹でペダルを引き上げるように意識します。これをイメージしてペダリングをするだけでも、結構変わると思いますよ。
――お尻ともも裏の筋肉を使って2時に位置からペダルに力を加える、端的ですが、お二人から伺ったお話しからこれがペダリングのエッセンスなのではないでしょうか。 早く自転車に乗って試したくなりました。
後編はこちら。
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